国際情報研究科

大学院での「理論」と企業法務での「実践」

国際情報研究科の学生のうち60%は社会人として働きながら研究する学生です。その社会人学生のひとりで、ラグジュアリーブランド企業にお勤めの三上能之さんと指導教員の石井教授に、大学院での学びについてお伺いしました。
※掲載している内容は、2024年5月時点の内容です 。

——— 三上さんは大学院進学をいつ頃から検討していましたか。また。検討に至ったきっかけや動機、業務で感じていた課題等を教えてください。

三上 前の会社で役職定年になった頃から、今後のキャリアとして、これまでの業務の経験を活かして大学や社会人向けの教員になることを考え始め、その目標を実現するために大学院に行くことを決めました。
プライバシーの法令遵守対応やリスクマネジメントを長年担当していますが、法務・セキュリティ・IT等プライバシーに必要な複数領域の業務が分かる人材が少なく、意思決定プロセスでの非効率、ビジネスの現場に適した粒度での対策の実装といったことに課題を感じていました。

——— そのような課題意識をお持ちの中で、数多ある大学院の中から国際情報研究科を選び、また石井教授を指導教員として希望した理由を教えてください。

三上 今からロースクールに行って法律の専門性をさらに掘り下げるというほどの動機はなく、自分の業務で求められている複数領域の専門分野について学際性ある学びができれば望ましいと考えていました。国際情報研究科を選んだのは、法律だけでなくITやAIといった技術面についても学ぶことができ、私の問題意識や希望する研究視点と合致していたというのが一つ目の理由です。また、プライバシーの専門性を深める上で、この分野の第一人者である石井先生の指導を受けたかったというのがもう一つの理由です。

石井 実務での課題意識を持つ社会人の方に本研究科に進学していただくというのは、まさに本研究科が目指すところです。
IT分野の第一線でご活躍の経験をお持ちの三上さんには、ゼミや授業を通じて、教員や他の学生にデータ保護の国際動向を巡る実務面での問題意識などをご共有いただいていており、それが研究科全体に非常に良い刺激を与えていると思います。三上さんは非常に学びの意識が高く、そのことも法律系合同ゼミの研究レベルを引き上げ、議論を活性化することにつながっていると感じています。

——— 仕事と学業の両立について、どのような点に気を付けて1週間のスケジュールを組んでいますか。

三上 平日は大学院の講義を週2日受け、その予習・復習をすることしか学業に時間が割けないので、週末に論文の執筆とその前提としての文献研究や先行研究の調査等に集中するようにしています。私は仕事も研究も並行して、あるいはフレキシブルに、平日に時間を組んで進めることは苦手なので、平日と週末のto doや時間の使い方を明確に区別し、各々集中力を高めて対応しています。
業務量が多い時あるいはデッドラインの厳しい業務を抱える時期は、平日の講義と週末のゼミに向けた作業を3つ並行してこなすこともあり、時間的にも体力的にも厳しいものがありますが、他の社会人学生の皆さんの中には、出張先から授業を受けている方もいらっしゃり、そのような環境が自身を奮い立たせてくれています。

——— 本研究科では対面授業と並行してオンラインでリアルタイムに授業を受けることができます(ハイフレックス授業)が、オンライン授業でも満足のいく教育を享受できていると感じますか。授業の雰囲気も含めて、授業で感じていることを教えてください。

三上 個人的には、ゼミはもちろんですが、講義も対面での出席が望ましいと考えていますので、業務や家庭のスケジュールとの調整をつけ、できる限り大学院に行くようにしています。オンラインの授業もネットでのアクセスや資料共有はスムーズに行われますので、満足のいく内容の講義を受けることができています。もっとも、ディスカッション形式になりますと、オンラインではより意識して議論に参加するようにしないと効率が下がるので、そこは留意して講義に臨んでいます。

石井 教員としても、ハイフレックス授業の際は、オンライン参加学生と教室参加学生との意見交換がうまく進むよう、随時、オンライン参加学生への声がけを行うなどして、できる限りインタラクティブに授業を進めるよう留意しています 。

——— 全員必修の科目「国際情報学研究指導」は、いわゆるゼミですが、ゼミはどのように進められていますか。

三上 1年目の時は、各ゼミ生が論文のテーマに関連した文献研究の内容の発表、また論文のテーマと構成案を発表して、指導教員や他のゼミ生との質疑応答やディスカッションを行いました。2年目は発表の対象が文献から論文のドラフトに移りましたが、進め方は基本的に同じです。また、法律系ゼミは石井先生、平野先生、小向先生の3つのゼミを合同で実施しているので、プライバシー以外にも情報法全般あるいはAIについても様々な指摘・アドバイスを受けることができ、贅沢な環境だと感じています。

石井 合同ゼミは非常に雰囲気が良く、うまく進んでいると思っています。メリットとしては、自己の研究領域に限らない議論に触れることで、新たな視点を得られるという点が挙げられます。また、社会人学生同士が人脈を広げることに加えて、学部卒の学生が社会人との交流機会を得るという面でもメリットがあると感じています。
ゼミの話からは逸れますが、先日は研究科全体で学生と教員の懇親会が実施され、名刺交換をする社会人学生の姿も見られました。大学院ではゼミはもちろんのこと、講義科目でもディスカッションの機会が多いので、懇親会で学生がお互いのことを知り合えたことで、その後の授業の密度にも良い影響が生じると思います。

——— 会社での業務において、本研究科での学びはどのように生かされていますでしょうか。

三上 会社ではプライバシー・個人情報に関する業務は、個別の案件での相談から、いわゆるプライバシーガバナンスの構築・維持、時にはお客様対応をサポートすることもあり、多種多様です。この中でもガバナンス系の業務は自分の研究テーマと直結していますので、論文作成を進める過程で得た様々な知識や石井先生から得た視点を業務の改善に生かす、つまり、理論を実践に移している実感があり、プライバシーの業務の質が向上、あるいは深みが出てきたように思います。

——— 2年間での修了に向けて執筆予定の修士論文タイトルと、そのテーマを設定した背景を教えてください。

三上 論文のテーマは、「プライバシーガバナンスにおけるDPO(データ保護オフィサー)の役割について」です。DPO(Data Protection Officer)とは、欧州のプライバシー法令である一般データ保護規則(GDPR)で一定の範囲の企業等で選任が義務付けられているプライバシーの専門家のことです。自分が企業でDPOに近い役割の業務をしてきた中で持った課題認識について、修士論文の中でそれを解決するための仮説を立てて妥当性を立証していくというものです。1年目の時は、DPOより広いテーマを設定していましたが、修士の2年弱の期間で仕事を抱えながらできる現実的な作業量を踏まえ、石井先生からアドバイスをいただき対象を絞りました。

石井 三上さんの実務的な専門性を生かせるようなテーマ選択を意識しました。また、三上さんは常にレベルの高い報告をされる学生さんですので、私の方からは、全体のストーリー展開や比較法的アプローチを行う場合の留意点に加えて、出典表記方法などの細かい点を含めて気付いた点を随時お伝えするようにしています。法律系合同ゼミの小向先生や平野先生からも有益なご助言をいただいています。

——— 本研究科では、学生自身が選択したメインの研究分野のみならず、他の分野の授業科目を履修する学際的な教育課程となっています。三上さんの主な研究分野は「情報法」でいらっしゃいますが、「AI・データサイエンス」分野や「社会デザイン・社会実装」分野の学びについて、どのように感じていますか。

三上 この2つの分野については、必修科目である「情報基盤研究法」や「ELSI研究法」の中で基礎的な内容を網羅的にカバーできたことは、様々な意味で研究の視野・幅が広がったと感じています。また、私の場合は加えて、吉田先生の「データマイニングとAI特論」を1年目で受講しました。AIについては書籍や論文を通じて理解に努めてきましたが、データサイエンスの具体的な知識のないので、AIの開発や利用におけるリスクを抽象的にしか理解できていませんでした。講義ではPythonを実際に動かしながら、機械学習の基本的なアルゴリズムを理解することができ、それを契機にこれまで手の付けることができなかった書籍や論文の理解が進みました。

石井 国際情報研究科の目指す学際分野の研究レベルを高める上では、他分野を学ぶ意義は非常に高いと思います。三上さんがおっしゃるように、これまで触れなかった文献等に接する機会を得ることは、特に社会人学生にとって貴重な機会になるだろうと感じています 。

——— 専門分野に関する知識の吸収以外で、本研究科への入学で思いもよらなかった学びや気づきがあれば、教えてください。

三上 知識の吸収に関係する話ですが、中央大学の図書館・データベースはとても充実していて、その点は入学前想定していた以上でした。図書館のスタッフの方のサポートもきめ細かいですし、他の図書館の書籍の利用・貸出も簡易にかつスピーディーに対応していただけますので、大変助かっています。

石井 三上さんは、ゼミでの研究活動に限らず、平日夜間の授業においても、非常に熱心に取り組んでおられると思います。三上さんの取組が他の学生にも良い刺激を与えていますし、その逆に、三上さん自身も他の学生から刺激を受けていると思います。修士論文の完成に向けて順調に執筆を進めていただけることを期待しております。
最近のIT環境の進展を踏まえると、情報法の理解を深めることの重要性はいうまでもありませんし、情報法を理解するためにはITの知識が不可欠です。本研究科は、ITと法が相乗効果を発揮することの求められる領域を扱っています。また、本研究科は、IT分野の学際的研究を行える大学院として、社会で様々に生起する問題を研究する場になることも目指しています。教員と学生、学生同士が比較的近い距離で研究を行える環境にあること、便利な立地にあること、図書館が非常に充実していることなど、他の研究科にはない魅力を備えていると思います。
日々の業務のアップグレードを目指す社会人の皆様をお待ちしております。