大学院

【究める vol.140】修了生の声 田村 侑也 さん(法学研究科 博士後期課程)

2024年05月30日

「究める」では、大学院にまつわる人や出来事をお伝えします。前回に続き、「修了生の声」をお届けします。博士後期課程の4回目となる今回は、法学研究科 博士後期課程を修了した田村 侑也さんです。大学院時代の研究テーマをはじめ、進学理由や大学院での過ごし方、印象に残っていることなど、様々な角度からのエピソードを掲載しています。

田村 侑也(たむら ゆうや) さん

2024年3月に法学研究科 博士後期課程 を修了し、博士(法学)を授与されました。
 

<博士論文タイトル>
「国際投資仲裁判断の執行問題」

大学院時代の研究について

国際投資仲裁判断の承認・執行に関する問題を研究してきました。国際投資仲裁は、外国人投資家と投資受入国との間の紛争解決(Investor-State Dispute Settlement:ISDS)の一類型であり、日本企業が、外国国家(投資受入国)を相手取って仲裁手続を開始する事例のほか、外国人投資家が、日本(投資受入国)を相手取って仲裁手続を開始した事例も確認されています。


そのような投資仲裁手続において利用されることが多いのが、「国家と他の国家の国民との間の投資紛争の解決に関する条約」(ICSID条約)に従って行われるICSID仲裁です。日本も締約国である同条約の下では、付託された投資紛争について、仲裁人の選任・審問を経て、仲裁判断が下されます。このICSID仲裁判断は、同条約のすべての締約国において、承認・執行されることになっており(同条約54条)、承認・執行地の裁判所が、その承認・執行を拒絶できる事由も規定されていません。このことから、(仲裁手続で敗れた投資受入国が任意に履行しない場合の、)ICSID仲裁判断の内容の強制的な実現に強い期待が寄せられてきました。


しかしながら、ICSID仲裁の利用が増加する中で、ICSID仲裁判断の承認・執行が申し立てられたとしても、その拒絶や手続の停止がなされる事例がみられるようになりました。そこで、なぜICSID仲裁判断の承認・執行手続が滞るようになっているのか、その背景にどのような事情があるのか、を明らかにするために、近時の同条約締約国の裁判例を取り上げて、検討しました。また、日本におけるICSID仲裁判断の承認・執行手続がどのように行われるべきか、についても検討しました。

中央大学大学院への進学を決めた理由を教えてください

中央大学法学部を卒業後、一度就職しましたが、ISDSについてもっと知りたいという思いと、米国留学に行きたいという思いから、大学院進学を決めました。ISDSに興味を持つきっかけとなったのが、学部4年時に履修した国際経済法の授業だったことから、中央大学大学院への進学を決めました。

ご自身にとって大学院はどのような場でしたか

一言でいえば、苦楽の場所でした。研究が進めばもちろん楽しい反面、思うように作業・検討が進まなかったり、自身の調査が十分でなく、それまでの作業・検討の意義が分からなくなってしまったりと、口惜しさを感じることが多くありました。指導教授や、授業・学内研究会でお世話になった先生方には、研究で行き詰った時に、幾度もアドバイスをいただきました。

中央大学大学院へ進学してよかったことについて

各分野を代表する研究者である先生方が、熱心に研究指導してくださることが挙げられます。私が大学院で行った研究は、国際私法(国際民事手続法を含む)・国際経済法に加えて、国内の民事手続法にも及び、分析対象としては英米法諸国の裁判例を取り上げました。このことから、多様な法分野の見地からアドバイスをいただける環境は、研究を行う上でまさに必須の要素であり、それまで自分では見えていなかった分析の視点を得ることができました。また、2021年度からは、大学院生の身分を維持しつつ、法学部の任期制助教に採用していただき、より研究に打ち込めるようになりました。このような制度面の充実さも、中央大学の強みだと思います。

大学院時代の印象に残っている出来事について

多摩キャンパス・茗荷谷キャンパスの研究室や、たまには居酒屋で、院生仲間とたくさん話したことでしょうか。先ほど言及したように、私の大学院での研究は、うまくいかない時もありましたし、就職活動で悩むことも多くありました。そんな時に、研究テーマや分野は違っても、本音で話せる仲間がいたことは、本当に有難かったです。また、博士前期課程では、他大学院に週1回、専門科目を2コマ履修しに通いましたが、中央大学とは違う雰囲気の中で、それぞれの目標を持った他大学の大学院生と交流することができました。

修了後の進路について

金沢大学に講師として着任しました。

受験生のみなさんへ

大学院への進学は、博士前期(修士)課程・博士後期(博士)課程のどちらであっても、その後のキャリア形成に多かれ少なかれ影響をもたらします。大学院生として、第一に取り組むべきは研究であることに異論はありませんし、それを可能にするための金銭的な支援も拡充傾向にあります。とはいえ、特に日本においては、大学院への進学・修了は、その先の未来を保証するものではありません。大学院在学中に就職活動を行う必要もあります。なぜ大学院に進学し、何を研究したいのか、その先に何を見据えるのか、周囲に助言を求めながら、受験前に考えることが重要だと、修了した今は思います。
 

 

 

※本記事は、2024年5月時点の内容です。