学生相談室

学生のみなさんへ【2024年度 学生相談室からのメッセージ Vol.3】

2024年07月01日

学生のみなさんへ

 

 

私が最近感じていることについて

 

もう7月ですね。新入生の皆さんは、待ちに待った夏休みの入り口がそろそろ見えてきて、楽しい予定も立て始めているかもしれませんね。実は何か学生さんにメッセージをと依頼されたこの文章ですが、どうも恥ずかしいので、代わりに私が最近感じていることについて書きとめてみたいと思います。

 

 

虫のこと

夏に向けて緑が目立ち始める5月から6月の時期は、1年間のうちでも虫が多い時期だそうです。皆さんはこの時期に出会う虫といえば、どんなものを思い浮かべますか?私がこの時期に真っ先に気になるのは蛍です。実は、私の住んでいる場所は比較的自然が豊かな地域で、近くの小川で毎年蛍を見ることができます。この時期になると、小学校1年生の息子と一緒に、真っ暗闇に繰り出して蛍の観察をしています。そうすると、蛍は暗くなりはじめの夜8時ごろ、特に雨が降った後の月のない夜に特に出会う確率が高いということや、オスとメスの光り方の違いなどにも気が付くことができるようになります。同時に、当たり前のことですが、個体差も見えてきて、まだ肌寒い6月初日に出てくる個体や、すごくヨロヨロ飛ぶもの、地面に止まって手に乗せても全く飛ぶ気配のないものまで、蛍にも個体ごとの特徴があるのだなと、生物の多様性を実感することもできるのです。

 

 

脳化社会のこと

ぼんやり夜な夜な蛍を観察していると、これまた当たり前のことだとお叱りを受けるかもしれませんが、その日の天気や時間、田畑や川、森など、生き物が生きている環境は非常に絶妙なバランスの中で保たれていることを強く感じるのです。もちろんちょっと周りの蛍よりもズレちゃうやつも出てくるけど、それはそれで自然環境はある程度受け止めてくれる懐の幅も深さもある。ちょっと早い時期に出てきちゃった個体は、他の蛍には会えなかったかもしれないけど、今か今かと楽しみに待っていた私たち親子には出会えて、目を楽しませてくれたわけで。虫の世界も人間の世界と同じで、ちょっと世間からズレちゃうやつも、それは視点を変えれば生の多様性として生きていける環境があるはずだと感じるのです。このような自然環境における多様性や変化への身体的感覚を徹底的に排除した人間社会を、養老孟司氏は「脳化社会」と呼び、都市化もその一つの例であると言います。

 

 

外に出てみること

思えば、茗荷谷キャンパスに法学部が移転してから、教室は空調管理され1年中一定の温度に保たれ、風は吹かず、土や砂利、植物の種や、虫は「ごみ」として、翌日には綺麗に清掃されることが、当たり前の環境となっています。しかし、これらの「自然環境の一部」は、見方を変えれば暗闇で出会う蛍のように、生き物の多様性に気づかせてくれるきっかけかもしれないですし、何より我々人間が自然環境の中で常に刺激を受け、感じ、変化する生き物であるということを実感させてくれる鏡かもしれないのではないでしょうか。幸いなことに、キャンパス内にも、5階のルーフトップガーデンでは、自然の温度管理と、風、様々な植物、虫や鳥に出会うことができる環境があります。また、少し歩けば教育の森公園もあり、より自然環境における多様性と出会う機会が多くあるかもしれません。もし気が向いたなら、身近な自然にちょっと目を向けて、外に出てみませんか。多様性との身体的接触が、みなさんを待っているかもしれません。

 

 

中央大学 法学部

森谷亮太