研究

法学部教授 海部 健三:ウナギの生態・文化・保全を伝える書籍を執筆

 法学部 教授の海部 健三は、書籍『日本のウナギ 生態・文化・保全と図鑑』を、元 本学研究開発機構 機構助教で現在東京大学大気海洋研究所 特任准教授の脇谷量子郎氏とともに執筆しました。この書籍は2024年7月19日に「山と溪谷社」から出版予定で、日本の淡水魚撮影の第一人者である、内山りゅう氏の写真を多数掲載しながら、日本における人間とウナギの歴史、ウナギの進化的位置とその生態について、中央大学共同研究プロジェクト「分野横断型研究による日本列島におけるニホンウナギ分布変遷の復元」の研究成果など、最先端のウナギ研究による知見を元に説明しています。
 この書籍の出版に当たり、海部教授は、下記のようにコメントしています。

【著者コメント(本書の「はじめに」から抜粋)】

 本書『日本のウナギ 生態・文化・保全と図鑑』は、タイトルの通り日本に生息するウナギ属魚類に関する情報をまとめたものです。日本列島における確認事例の少ない2種を含めても4種に関する記載にもかかわらず、「 図鑑」を名乗るのはなかなかチャレンジングですが、本書の本質は、ウナギの生態写真にあります。これらの写真のほとんどは、淡水魚の生態写真の撮影をライフワークとしてきた内山りゅう氏が撮影したものであり、このような写真なくしては、本書の出版はあり得ませんでした。ウナギの生態を垣間見せる写真が本書を特徴づけるものであり、それらを通じてウナギの生き様をお伝えすることが、本書の主たる目的といえます。

 とは言いながら、本書ではウナギと人間の関わりについても多くのページ数を割いています。現在、ウナギは絶滅危惧種に区分されており、個体群縮小の要因として、人為的な影響が深く疑われています。生物としてのウナギの歴史は数千万年と、我々人間の歴史とは桁が違います。生物としての大先輩であるウナギの生存をヒトが虐げているとすれば、その関係の歴史を紐解き、未来についてもう一度考えるべきではないでしょうか。ウナギの栄養価が高く、美味しいことはよく知られていますが、我々がどのようにウナギを認識してきたのか、その関係はいつから始まったのか、その詳細はあまり知られていません。本書では、これら人間とウナギの関係について、特にその歴史を紹介するよう心がけました。

◆第1章 ウナギという魚
ウナギとはどのような魚か?/カライワシ上目の概要 レプトセファルス幼生期をもつウナギの仲間たち/ウナギ目の系統と分類/ウナギ科の系統と分類/ウナギ属内各種/ウナギの外部形態/回遊と生活環

◆第2章 日本のウナギ
日本で見られるウナギ メジャーな2種と希少な2種/ニホンウナギ/オオウナギ/ニューギニアウナギ/ウグマウナギ

◆第3章 日本のウナギの一生
ニホンウナギの生態 接岸から降河まで/接岸 海流によってたどり着き、匂いで川を知る/遡上 満潮にのって遡上をはじめ、さらに上流へ/隠れ場所 ウナギにとって重要な身を隠す場所/捕食 夜間に活動し、さまざまな餌をとる/被食 小さなうちは敵も多い/個体間の争い 餌や隠れ場所を巡る争い/産卵回遊 住み慣れた川を離れ、産卵場へ/河口ウナギ・海ウナギ ほとんど遡上せずに暮らすウナギたち/オオウナギ 知られざるその生態/ウナギの採集調査

◆第4章 日本人とウナギ
日本人とウナギの歴史/縄文・弥生時代 出土する骨から知る当時のウナギ事情/奈良~安土桃山時代  日本の文化に入り込むウナギ/江戸時代 豊富な文献から読み解くウナギ/明治時代~令和 養鰻がはじまり、養殖ウナギが消費の中心に/養鰻/今も続くウナギ信仰
縄文・江戸・現在のウナギ分布比較/縄文・弥生時代におけるウナギの分布/江戸時代におけるウナギの分布/現代におけるウナギの分布/ウナギ属魚類自然分布変動の要因/内陸部への遡上
ウナギの漁獲/シラスウナギ漁/黃ウナギ・銀ウナギ漁/ウナギ釣りに使う道具/さまざまな釣り餌/岡山県児島湾の天然ウナギ漁
ウナギを食べる/ウナギの栄養価/鰻蒲焼きの誕生/鰻丼の誕生/蒲焼の作りかた/日本のウナギ料理/世界のウナギ料理/美味しいウナギとは?/江戸時代の文献から辿る美味しいウナギの条件/頭部形態と味/江戸時代の「美味しいうなぎ」の特徴と養殖ウナギ

◆第5章 日本人とウナギの未来
保全/ニホンウナギの集団構造と国際協力/海の環境変化/過剰な消費/生育場環境の劣化/放流/完全養殖/日本の消費が世界に与える影響/保全に関係する国際条約/世界で行われる保全の取り組み/日本人とウナギの未来

【コラム】耳石によってわかること/「ウナギ」とつくがウナギではない魚たち/ウナギの性分化と繁殖戦略/超音波テレメトリー手法を用いたウナギの生息域利用研究/東都宮戸川之図から見る江戸時代の隅田川/古座川で餌として使われるボウズハゼ/北アイルランドのウナギ漁

 「美味しい鰻とは?」の謎を、江戸時代の文献から紐解きつつ現代の科学でも確認していった本書を、ぜひ土用の丑の日にあわせて、ご一読ください。

 本書の詳細は、「山と溪谷社」のWebサイトをご覧ください。

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